はじめに
IPA(情報処理推進機構)の「非機能要求グレード」では、可用性や性能・拡張性、セキュリティなどが注目されることが多い一方で、「システム環境・エコロジー」は比較的見落とされやすい項目です。
実際のプロジェクトでも、
- サーバは設置できると思っていたがラックスペースが不足していた
- 機器重量が想定以上で床荷重を超えてしまった
- データセンターの運用ルールとシステム要件が合わなかった
- 環境配慮方針への対応が後から求められた
といった問題が発生することがあります。
これらはシステムそのものの機能や性能の問題ではありません。しかし、要件定義段階で整理できていないと設計変更や追加コストの原因となり、プロジェクト全体に大きな影響を与えることがあります。
非機能要求グレードでは、このようなシステムを取り巻く環境や前提条件を「システム環境・エコロジー」として整理しています。
非機能要求グレードがそもそも何か?については以下の記事にまとめています。
インフラ要件定義で役立つ「非機能要求グレード」とは?実務で感じたメリットと注意点
本記事では、システム環境・エコロジーの考え方と、インフラ要件定義で確認しておきたいポイントについて解説します。
システム環境・エコロジーとは何か
システム環境・エコロジーとは、システムを設置・運用する環境や、環境負荷への配慮に関する要求です。
インフラ要件というと、
- サーバ台数
- CPU性能
- ストレージ容量
- ネットワーク構成
などに注目しがちです。
しかし実際には、
「どこに設置するのか」
「どのような制約があるのか」
という前提条件も非常に重要です。
例えば、高性能なサーバを選定しても、
- 設置スペースが足りない
- 電源容量が不足している
- 空調能力が不足している
といった問題があれば導入できません。
また近年はSDGsやESG経営への関心の高まりから、エネルギー効率やCO2排出量といった環境面への配慮も求められるようになっています。
システム環境・エコロジーは、こうした技術以外の観点からシステムを支える重要な非機能要件といえます。
システム制約や前提条件を早期に整理する
システム環境・エコロジーの中で最初に確認すべきなのが、システム制約や前提条件です。
要件定義では、
- 社内規程
- 業界ルール
- 法令
- データセンター利用条件
- セキュリティポリシー
などを整理します。
例えば、
「サーバへの直接アクセスは禁止」
というルールがある場合、運用はリモートアクセス前提で設計する必要があります。
また、
「個人情報を国外へ保存できない」
という規定があれば、利用できるクラウドリージョンも制限されます。
実務では、このような制約条件が後から発覚するケースも少なくありません。
しかし設計が進んだ後に制約が判明すると、構成変更や再設計が必要になることがあります。
そのため、要件定義の初期段階で前提条件を整理しておくことが重要です。
システム特性を明確にすることが設計の出発点
システム特性とは、そのシステムがどのような規模や利用形態を持つのかを示す情報です。
非機能要求グレードでは、
- ユーザ数
- クライアント数
- 拠点数
- 地域的な広がり
- システム利用範囲
- 多言語対応
などが挙げられています。
例えば、
ユーザ数100人の社内システムと、
全国数万人が利用するサービスでは、
必要なインフラ構成が大きく異なります。
また近年はクラウドサービスの普及により、
- 国内のみ利用
- 海外拠点利用
- グローバル展開
など利用範囲も多様化しています。
実際のプロジェクトでは、
「将来的に利用者が増える」
「海外展開を予定している」
といった情報が後から出てくることがあります。
そのため要件定義では、現在だけでなく将来の利用計画も含めて整理しておくことが重要です。
適合規格や法規制への対応も忘れてはいけない
システムによっては特定の規格や法規制への適合が求められる場合があります。
例えば、
- 製品安全規格
- 環境保護規制
- 電磁波規制
- RoHS指令
- ISO関連規格
などです。
一般的な業務システムでは意識する機会は少ないかもしれません。
しかし、
- 工場設備
- 医療機器
- 公共インフラ
- 組み込みシステム
などでは重要な要件になります。
特にハードウェアを伴うシステムでは、
設置する機器そのものが規格を満たしている必要があります。
後から規格対応が必要になると、機器選定そのものを見直す可能性もあるため、早い段階で確認しておくことが重要です。
機材設置環境は意外と見落とされやすい
インフラエンジニアとして特に注意したいのが機材設置環境です。
設計書には記載されていても、要件定義では十分に議論されないことがあります。
代表的な確認項目としては、
- 設置スペース
- ラック搭載可能サイズ
- 機器重量
- 電源容量
- 温度条件
- 湿度条件
- 空調能力
- 耐震・免震要件
などがあります。
例えば、
新規サーバを導入しようとした際に、
「ラックに空きがない」
「重量制限を超えている」
という問題が発生するケースがあります。
また、オンプレミス環境では空調性能も重要です。
高性能サーバを大量に導入した結果、想定以上の発熱が発生し、機器故障リスクが高まることもあります。
クラウド利用が増えている現在でも、
- ネットワーク機器
- オフィス設置機器
- エッジサーバ
などを利用するケースは存在するため、設置環境の確認は重要です。
エコロジーは今後さらに重要になる
近年、企業活動において環境への配慮が重要視されています。
そのため非機能要求グレードでは「環境マネージメント」という観点が設けられています。
具体的には、
- 消費電力削減
- CO2排出量削減
- エネルギー効率向上
- 廃棄物削減
- 低騒音化
などです。
以前はシステム要件として扱われることは少なかった分野ですが、現在では多くの企業が環境目標を掲げています。
例えば、
オンプレミス環境からクラウド環境へ移行する理由の一つとして、
「電力消費の削減」
を挙げる企業もあります。
また、サーバ統合や仮想化による機器削減も環境負荷軽減につながります。
今後はESG投資やカーボンニュートラルの流れもあり、環境要件がより重要視される可能性があります。
インフラエンジニアにとっても、単なる性能や可用性だけでなく、環境負荷を意識した設計が求められる時代になってきています。
実務で感じるシステム環境・エコロジーの重要性
私自身、インフラ案件に携わる中で感じるのは、この項目は軽視されやすい一方で、後から問題になることが多いということです。
可用性や性能要件は多くのプロジェクトで議論されます。
しかし、
- ラック搭載可否
- 電源容量
- 運用ルール
- 設置場所の制約
などは設計フェーズに入ってから初めて話題になることがあります。
その結果、
- 機器選定のやり直し
- ラック増設
- ネットワーク再設計
などの追加対応が発生することもあります。
非機能要求グレードの価値は、このような見落としやすい項目を体系的に整理できることにあります。
特にシステム環境・エコロジーは「問題が起きるまで気づきにくい」項目だからこそ、要件定義段階で確認しておくことが重要だと感じています。
まとめ
システム環境・エコロジーは、システムを取り巻く環境や前提条件、そして環境負荷への配慮を整理するための非機能要件です。
IPAの非機能要求グレードでは、
- システム制約・前提条件
- システム特性
- 適合規格
- 機材設置環境条件
- 環境マネージメント
という観点で整理されています。
実務では性能や可用性に注目しがちですが、設置環境や運用条件を見落とすと大きな手戻りにつながることがあります。
また、今後は環境負荷軽減や省エネルギーへの要求も高まることが予想されます。
システムを長期的かつ安定的に運用するためにも、要件定義の段階からシステム環境・エコロジーをしっかり整理し、後工程でのトラブルを未然に防いでいきましょう。


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